マルク・マルケスはいつだってアグレッシブな走りをしているわけではありません。
彼はアグレッシブな走行の使いどころを誰よりもわきまえていて、その結果誰よりも早く・高くマシンのポテンシャルを引き出せているといえます。
セッティングとライディング(マルケスのアプローチ)
ライダーにとって明確で解りやすい師匠がいることはこの上なく幸せで、それがまさしく今です。
4人の師匠
今年の4強に、それぞれのライダーに教えを乞えるととしたら、それぞれ次の項目です。
セッティングについてダニ・ペドロサに学び、
ライディングについてホルヘ・ロレンソに学び、
レースについてバレンティーノ・ロッシに学び、
そしてアプローチについてマルク・マルケスに学ぶとよいでしょう。
異論がありそうですが、今回はマルケスのアプローチについて解説してみます。
観客としてではなく、同じライダーとしての視点で考えてみましょう。
マルケスのアプローチ
今のマルケスがいかに優れたライダーかという視点では、非凡な才能とか、もって生まれた天性の才能とか、恵まれすぎている環境とかを話題にしても何の役にも立ちません。
そんなことより、その恵まれた条件の中で、何を学び、何を吸収し、何ができるようになったかを知ることが、ライバルに先んじる近道です。
うらやむより、その膨大なリソースを、自分は労せずに同等の効果を得るのが「正しい学び」というものでしょう。
マルケスのすごいところ
マルケスがすごいのは(もしかしたらトレーナーですが)、転ぶことを前提にしているということです。
言うは易し、行うは難しを、実際に行っている事がすごいと言えます。
転んでしまうことを前提にして転倒してもダメージが少ないように体を作り、転倒の仕方についても経験を積むことで、誰よりも転倒に近い状態での走行の経験値が多く、そして転倒に慣れているといえることです。
その下地があるからこそ、あの、アグレッシブな走行ができるわけです。
そして、そのアグレッシブな走行を要所要所で行うわけです。
そして実際にそれができてしまうことがすごいところです。
ただし間違えてはいけないのは、その走りがベストなわけでも、望んだ走りでもないことです。
なぜならマルケスだって、ロレンソのようなスムーズな走りのほうが速いことを知っているからです。
そんなことはやってみればすぐわかる。
それでもあえて実行することのメリットは?
体が資本
凄いところその一は体ですね。
怪我を負っても生活の心配をしなくて済むのはそれはそれでうらやましいことですが、それを引き合いに出してはいけません。
そうではなく、マルケスは、まず、怪我を最小限に抑えられるような努力をしています。
ストレッチや柔軟や体力トレーニングなどをしっかりやっています。
転倒しやすいダートラの練習なども(表裏一体ですが)負傷を減らすメニューの一環と言えるでしょう。
ワークスだから皆同様にトレーニングしていると言ってしまえばそれまでですが、それならそれで単なるトレーニングなので同様にできることです。せめてマルケスと同じくらい気軽?に転倒できるようにしておきましょう。
因みに、日本の国技の相撲にもケガ対策のためのメニューが稽古に組み込まれて入るのですが・・・これはスポーツ大国ブルガリアのトレーニングやコーチング、医師との協力などが総合的に優れていますので、そちらを参考にするとより万全だと思います。
ライディング
肝心のライディングへのアプローチですが、大きくセッティング時のアプローチと、予選・決勝時のアプローチで分けてみます。
セッティングのアプローチ
セッティングの出し方そのものにはあまり詳細には触れません。
まあ普通に、マシンの状況を確認し、自分の望むように変更し、の繰り返しでしょう。
冒頭で述べている通り「セッティングはダニ・ペドロサ」なので、
マルケスのセッティング出しはあまり参考にならないと思っています。なぜならペドロサの好調さとチームの好調さが比例しているのがその証です。
ペドロサのおかげでマルケスは頂点でいられるとさえ思っています。
それにもしかしたらセッティングが出せないから、見た目がアグレッシブになってしまうとも言えなくもないから
特徴的なのはセッション(走行)の最後にあのアグレッシブ走行を行うことです。
これで、タイムが縮まってしまうので、紛らわしいのですが、このアグレッシブ走行は自身の走行の正当性の確認ととらえるとよいでしょう(理由は後で)。
予選のアプローチ
ほとんどセッティング時と同じです。
もしも最後に行うアグレッシブな走行でタイムが縮まったとしたら、決勝はさらにタイムアップできることが想像できます(もしかしたらペドロサ次第?)。
対して、思ったよりタイムが上がらなかったら、セッティングとライディングが正しく煮詰められたと思ってあげましょう(理由は後で)。
決勝のアプローチ
決勝でアグレッシブ走行をしている時には、次のようなパターンになります。
- 前走者に追いつこうとしている時
ここでやる必要は少ないので、この場合はほとんど悪あがきの時です - 最終ラップでのパッシングやや引き離し時
短期集中で頑張ろうとしているときです。
微妙にタイミングがずれてしまっているように見えますが、転ばないのが凄いところ。
これでタイムアップするのがマルケスの凄いところです。 - ライバルと遊んでいる時
アグレッシブ走行のメリットと、ライバルよりやり慣れていること、そもそも転倒の恐怖がないことの優位性から、鬼に金棒になれます。ただしこれで転倒してしまうのがマルケスの凄くないところ、というかまだまだ弱点です。
ということで最終戦では上記のどの状態でもなかったことになります。
さて本題の、アグレッシブ走法のメリットというか何をやっているのか?です
アグレッシブ走行のメリット
前に言った通り、アグレッシブな走りでタイムが上がると、思ってはいけません。
一応究極的には、F1のようにひたすらスムーズに走ることが、ロスタイムしなくて済む一番の秘訣といえるからです。
それでは、なぜアグレッシブにするかというと、自分のライディングや、マシンのセッティングが正しく完璧かどうかの確認のためです。
自分では完璧で100点満点だと思っているライディングが、実は90点なのか、実は110点なのかがアグレッシブに走ることで確認できます。マシンのセッティングも同様です。
もちろん適当にアグレッシブにすればよいのではなくて、今までの状態から均等に上増しすることが重要です。それがコントロールできた状態で初めてその結果で、状況判断したり、次回に反映することができるのです。
その微妙なコントロールを必要な時にできることがすごいといえます。
ただし、まだまだというか、ライダーだけが先走っても、うまくバランスできるわけはないので、現状のライディングが完ぺきといる状態でもなさそうです。まだまだ上があります。
したがって、アグレッシブに走った結果タイムが上がってしまった場合は、セッティングの方向性や、自分のライディングにまだまだ余裕があったということになってしまいます。
セッティング能力としてはまだまだな状態といわれてしまうような結果です
本人にとってあまりうれしくないことではありますが、その結果次回にはより速いパッケージにすることが可能です。
まとめ?
ということでマルケスはアグレッシブだから速いのではなく、アグレッシブに走れるからマシンも早くなり、ライダーもマシンのポテンシャルを引き出せるわけです。
そうしてマシンをより良い状態において、決勝は、転倒しないようにセーブして走ればよいという王道を実現させることができるのでした。
真実はともかく速くなりたいのであれば都合よく解釈することが重要です。
加えてこれをバトル時にやると、周囲がビビるので、非常に効果的です。
ラフなライディングは、マシンの横幅が数倍膨れ上がるのと同等になるので、抜きにくいし、後ろからくると気になります。ライバルの疲労度が増すこと請け合いです。
挑発行為に等しいこの走りは、ラインをイン側に振ってブロックするのと、ラインをアウト側に振ってブロックすること、目で威嚇すること、手を挙げてアピールすること、口撃することと比較しても一番強力ですね。
ルール上OKであろうことから、十分に練習しておくことが、タイムアップにも、バトルを制するためにも効果的でしょう。
以上
セッティングとライディング(マルケスのアプローチ)
でした。

2013/08/17 – mgp – Round10 – Indianapolis – MotoGP – Marc Marquez – Repsol Honda – RC213V – Action





















