レーサーにとって一番充実した時間、それはレース全体を自らの手でコントロールしている時ではないでしょうか。
2014年Moto3最終戦、バレンシアでのジャック・ミラーはまさしくそういう時間を過ごせたのではないか思います。
速さだけではなく、後続の順位をコントロールするために先頭を走りながらペースを落とすことが課され、
一旦逃したら計画が崩れるので、全周にわたり気を許すことも出来ませんでした。
そしてこれが「転倒してはいけない」という、余計なプレッシャーが不要な状態で戦えたのですから。
さて、
これが我が身に起きたらどう戦いましょうか?というのが本題です。
まずは、今回のミラーの走りをよく観察してみることから始めましょう。
結果はご存知の通り思惑通りにはなりませんでしたね。
レース中盤で他のライダーに一旦逃げ切りを許してしまいました。
この事により隊列が縦長になってしまい、結果的には実力通りの順位に収まってしまいました。
しかし、コレを失敗と呼んではいけません。
ミラーのシーズンをとおして勝率をみると100%の強さがあるわけではないからです。
この勝率は1つのレースの中でも当てはまる数字と考えるべきでしょう。
いわゆる実力を出し切った状態で「残念だったかもしれない」けど「よくやった」と言えるレースと見るべきです。
というより「十二分に戦法を実践できた」といえるのではないでしょうか。
改めて、ミラーがどのように走り、それがどのくらい効果があるかを探り、反省点は何がありそれは回避できるようなものであったのか、
などなどを十分観察してみましょう。

具体的には。
戦い方は、はためには単純です。
自分、あるいは協力者が、トップを走行しつつ混戦になるようなペースで後続を抑えて走ることです。
まず最初に考えなければいけないことは、
10人ぐらいでグループを作りたければ、10番目のライダーの走行可能なラップタイムやペースで走ることです。
「適当にゆっくり走る」ではいけません。
ということは、
ピットからそのターゲットタイムをライダーに伝える事が必要です。
ライダー任せではいけません。
しかし、いきなりサインボードにターゲットタイムを出しても正しく伝わるかどうかは疑問がのこります。
ということは、
事前にパターンに応じたサインボードの表示方法を十分周知徹底しておくことです。
走行中のライダーの脳力を買いかぶってはいけません、見くびることも忘れないでおきましょう。
選択の余地の無いように十分わかりやすいサインにしておくことがポイントです。
そのうえで、
実際にそのターゲットタイムで走行します。
もちろん、単純にそのタイムで走ればよいのではなく、
自分は抜かれないように、しかし後続はパッシングしやすく順位が入れ替わるようにです。
ペースを落とす場所も吟味が必要ということです。
その場所は、コースやその時のライダーによって様々です。
ということは
ペースを落として走行する技はもちろんのこと、コースの特性などを十分把握しておくことも必要です。
経験が不足している場合は、テレビ番組のゲスト解説者の助けを借りましょう。
トップライダーが解説するその言葉の端々に貴重なうんちくが含まれていたりします。
肝心の、ターゲットタイムの走り方としての、ポピュラーな方法として、
「ラインの自由度がなく、なおかつ次のコーナまでにも抜かれなくいコーナーをゆっくり走る」というのがあります。
これは 後続を集団にする効果はあります。
リスクも低いのでそういうコーナーがあったら積極的に利用しましょう。
ただし順位はあまり変わりませんので別の方法も組み合わせることが必要です。
「入口で抜かれないようにインを閉めて走る」というのもあります。
順位的にはこちらのほうが効果がありそうですね。
ただし当然ですが、抜かれないようにそれなりのペースで走る必要があります。
まずはその走法のロスタイムがどのくらいか把握しておくとよいでしょう。
この走法が有効なすべてのコーナーで、失うことができるロスタイムを把握しておくことです。
そして、この走法を1週中に何箇所でするかで、ターゲットタイムでの走行を具現化することが出来ます。
しかし、これだけでは足りません。
コースレイアウトにより順位を失ってしまうことがあるからです。
失った順位を取り返せればよいとお思いですが、これでは一旦主導権が他人に移ってしまいます。
別の方法があるかどうか、さらにストックを増やしましょう。
そのレースコントロールに関しての一番の師匠は、実はコース上にウヨウヨいます。
それは練習中によく出会う、「抜きたくてもなかなか抜けない嫌なやつ」、
「抜きたいライダー」、「抜けないライダー」のことで、目の前に居続けてくれる殊勝なライダーたちです
そこは、イライラする場面ではなく、貴重な教えを学ぶ場面です。
抜ける箇所を見つけることはもちろん、抜きにくい時のその特徴をしっかりと体系化し、自分のものにしましょう。
キーワードは、一瞬のもたつきや、正確なスピードコントロールです。
もたつきは単純にもたついた分だけのロスタイムだけではありません。
それが周囲に与える影響も学習しましょう。
入口、旋回中、立ち上がり、それぞれに特徴があります。
そして、使う場面や使い方次第でメリットにも、デメリットにもなることを学びます。
速度への影響だけではなく、精神的な影響も見積もりに入れておくことも大切です。
スピードコントロールも重要です。
各ミッションでの回転数の差が何キロ差になるかも把握しておきましょう。
そして1キロ遅いとか速いとかを判断できる具体的な何かを作っておくと色々便利です。
スピードは時速1Kmの速度差がラップタイム的には1秒ぐらいの差になったりするでしょう。
学ぶものはほかにもあります。
ラインです。
ラップタイム差が、ライダーやバイクのスペックの差ではなく、ライン的な遅さな場合です。
これは貴重です。
ペース的な遅さではなく、通過ラインが遅さの原因の場合は、ハイペースの場合と同じくらいタイヤやライダーなどのリソースを消費させてくれるからです。
また一旦ラインが固定されてしまうと、ほっておいてもそのラインで走り続けてしまうという悲しいサガも期待できます。
とにかく沢山の事例を引き出しに蓄えておきましょう。
インを閉める走法も、1瞬のもたつきも、直後のライダーにはタイムロスさせることができるが、離れたライダーには影響しないとか、
対して、ライン的なラップタイムの低下は全体に影響がある場合がある。とか。
あるいは、コースによっては上記の特徴が逆転することがあるとか。
これらを組み合わせて目的の隊列に整列させていくわけです。
肝心なことは、
これらの技を駆使したら、目的が叶うかどうかです。
そして残念ながら叶わないにしても、それにかける価値が有るかどうかです。
価値がない場合はサクッと先行逃げ切り作戦で行きましょう。
もちろん、
他のライダーのポイントのコントロールだけではなく、単純に自身の勝利のためにも使えます。
ライバルをいらいらさせることや、体力などのリソースを消耗させることも立派な走法です。
では
基本の基は終わり、応用編の レースコントロールでした。

アレックス・マルケス VS. ジャック・ミラー
そして
レースコントロールを学ぶことで、レースコントロールされた時の対策も準備できることでしょう。
キーワードは、
距離です。
近距離と遠距離からのアプローチ(アタック?)の違いを有効に活用するとよいでしょう。
これは「レースコントロール」というより「バトル」ですね。
ではでは



















